雇用調整助成金特例措置延長の裏でパワハラ進行中
新型コロナウイルス感染拡大に伴う補正予算で、雇用調整助成金の特例措置が行われていますが、その裏側でパワハラ(パワーハラスメント)が進行しているのです。
まずは雇用調整助成金の説明
雇用調整助成金とは、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業手当に要した費用を助成する制度で、今回の新型コロナウイルス感染拡大による業績低下も経済上の理由になります。
事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に休業手当の一定割合が助成されます。
コロナの特例措置とそれ以外(通常版)とでは助成内容が大きく違います。
(コロナの特例措置の方が有利)
また、中小企業と大企業とは受給内容。(中小企業の方が有利)
休業手当の一定割合が助成されますが、その助成率は、通常版で 2/3(中小企業)、1/2(大企業)ですが、コロナの特例措置では、助成率が 4/5(中小企業)、2/3(大企業)。
さらに解雇等を行わず、雇用を維持している場合であれば、 10/10(中小企業)、3/4(大企業)。
ただし上限額として、通常版では、休業1日当たりの上限額は 8,370円(令和2年8月1日現在)ですが、コロナの特例措置では 15,000円になります。
つまり、解雇しない中小企業では、従業員に支払った休業手当の全額を助成金として会社に支給されます。(正確には支払った休業手当とは限りませんが説明を省略します)
ここまでが雇用調整助成金の説明。
ここからはパワハラ
厚生労働省は、パワーハラスメントを次のように決めてます。
以下の①~③の要素をすべて満たすものを職場のパワーハラスメントの概念と整理。
①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
②業務の適正な範囲を超えて行われること
③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
このパワーハラスメントを6つの類型に分けしています。
①身体的な攻撃・・・上司が部下に対して、殴打、足蹴りをする
②精神的な攻撃・・・上司が部下に対して、人格を否定するような発言をする
③人間関係からの切り離し・・・自身の意に沿わない社員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
④過大な要求・・・上司が部下に対して、長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命 ずる
⑤過小な要求・・・上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせる
⑥個の侵害・・・思想・信条を理由とし、集団で同僚1人に対して、職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよ う働きかけたり、私物の写真撮影をしたりする
そこでなぜ雇用調整助成金の助成拡充がパワーハラスメントなのでしょうか?
相談事例1.出社したくても出社できない
「会社からは経営状況が厳しいので、給料は残業代を除いて全額支給するから自宅待機してほしい」
会社に行きたくない人であれば問題はないのですが、この人とは会社に行きたい人ですが、会社からは出社しでほしいと言われています。なぜ会社は出社してほしくないのでしょうか?
雇用調整助成金です。
休業させて休業手当を支給していれば雇用調整助成金の申請ができるのです。
しかも現在では、休業手当の支給率が100%であれば休業手当のほぼ全額が助成金として受給可能。
そのため会社としては戦力にならない従業員を集中的に休業させておいて、少数精鋭で営業することもできます。
戦力にならない人の分も少数精鋭でカバーできれば会社としては社会保険料くらいしか負担はありません。当然、休業対象者は職務評価が低くても異論は出ないでしょう。
休業対象者は、このようなご時世なので休業命令に従うしかない。
ということで会社としては戦力になる人だけで十分回すことが出来るかもしれません。
これは③人間関係からの切り離しになるでしょう。
相談事例2.退職したくても退職させてもらえない
「業績が悪く、自宅待機を命じられているので、退職して他の会社で働きたいが、退職させてもらえない」
行業績が悪くて休業が続くので退職届を提出したが、受理してもらえなかった。
聞いてみると、その会社は休業手当を100%支給していて、雇用調整助成金も満額受給していたようです。退職されると、1か月の所定労働日が20日として20日分の雇用調整助成金が受給できなくなるので資金繰りに影響があるようです。助成金は営業外収入なので、会社の利益率にもよりますが10~20倍の売上に相当します。資金繰りのために長期休業を余儀なくされているのでしょう。
これも相談事例1と同様に雇用調整助成金を最大限受給したいがために退職させてもらえないようです。これはパワハラというよりも退職の自由を否定されている点で人権問題になり得ます。
経営者のモラルハザード
不正受給は論外ですが、特例措置の内容が充実しすぎているので経営者のモラルハザードが起こっても不思議ではないです。この特例措置の延長が年内で終わるようですので、年明けからは雇用状況が悪くなることが予想されます。雇用調整助成金の特例措置の目的は失業者抑制ですが、助成金があっても会社がどこまで雇用維持できるか不透明です。失業者は失業者で正確なデータを集計したうえで適切な政策を実施しなければなりません。