ドライバーの労働時間
労働時間とは
労働時間とはどんな時間でしょうか。
実際に労働している時間が労働時間であることは間違いありませんが、それだけでしょうか。
労働者が労働に従事する場合、一般に使用者の指揮命令のもとに労働するものであるから、労働するために、使用者の指揮命令下におかれる時間は、現実に労働することがなくても労働時間となります。
手待ち時間と待機時間
作業と作業との間に生ずる手待時間は、実際に仕事をしないでいても、仕事があればいつでも取りかかるための待機時間であるので、休憩時間とは異なり労働者はその時間を自由に利用できないため、労働時間とされます。
休憩時間か手待時間かの区別は、労働者が自由に利用できることが保障されている時間であるか否かによります。
拘束時間とは
就業規則等で定められている始業時間から終業時間までの時間を、通常「拘束時間」と呼ばれています。この拘束時間の中には休憩時間が含まれていますが、休憩時間を含めて労働者は一定の拘束を受ける時間という意味で拘束時間と呼ばれています。
しかし、休憩時間は、労働者が権利として労働に従事しないことを保障される時間とされるから、通常、拘束時間から休憩時間を除いた時間を労働時間とみます。
ドライバーの最大労働時間
それでは、ドライバーの最大労働時間はどのくらいになるのでしょうか?
運転者の時間外労働時間の上限について労働基準法には規定がなく、労働基準法とは別の「改善基準」とよばれる通達で拘束時間については
- 1か月間の最大拘束時間を、原則293時間
- 1年間の拘束時間の上限を3,516時間
- 1日の最大拘束時間を原則13時間、週2回まで拘束時間を15時間にできる
それをもとに1年間の最大労働時間を考えてみます。
(例)1日の所定労働時間が8時間00分、休憩時間が1時間00分の会社の場合で、月毎の繁閑を考慮しないで平均して、深夜労働を含まずに考えます。
- 年間の1週間の数 365日÷7日間=52週
- 年間所定労働時間 52週間×40時間=2,080時間
- 年間所定労働日数 2,080時間÷8時間=260日
- 年間休憩時間 260日×1時間の休憩時間=260時間の年間休憩時間
- 所定労働時間2,080時間+年間休憩時間260時間=2,340時間
- 年間最大拘束時間3,516時間-2,340時間=1,176時間(時間外労働時間の上限)
これを時間給1,000円で計算すると
年間所定労働時間2,080時間×1,000円=2,080,000円(法定労働時間分)
年間時間外労働1,176時間×(1,000円×1.25)=1,470,000円(時間外割増賃金)
2,080,000円+1,470,000円=3,550,000円(年間給与)
3,550,000円÷12月=295,833円(月間給与)
つまり、月間で時間給の300倍が月給の上限です。
労働時間の原則と例外
労働時間の原則
労働基準法 第32条では1週間に40時間・1日に8時間という労働時間の原則を定めています。
この原則で行きますと、全ての週で40時間、全ての日で8時間までしか働けないのです。(36協定は後でご案内します)
しかし、実際には1週間の労働時間が40時間、1日の労働時間が8時間を超えてしまうことが多々あります。そのような場合、例外として、変形労働時間制があります。
労働時間の例外
変形労働時間制とは、労働基準法で決められている労働時間の運用を月単位や年単位などで調整して、1か月や1年を通して1週間の所定労働時間を平均して40時間に収める制度です。
1年単位の変形労働時間制とは
1年単位の変形労働時間制とは繁閑のある事業場で、繁忙期に所定労働時間を長め(最長でも1週52時間、1日10時間まで)に設定して、
業務が薄い時期に所定労働時間を短めに設定して、メリハリをつけた労働時間を設定することで年間を通して見た場合の労働時間の短縮を図ることを目的にした変形労働時間制です。
ですから、季節的な業務の繁閑がない会社には導入できません。
1年単位の変形労働時間制を導入するために決めること
- 対象となる労働者の範囲(職種ごとに何名が対象になるか)
- 対象となる期間(1カ月を超え1年以内の期間のみ)と起算日
- 特定期間(設定しなくてもよい)
- 労働日と労働日ごとの労働時間
- 労使協定の有効期間(起算日から1年間)
なお、1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合には所轄の労働基準監督署長への届け出が必要。
1年単位の変形労働時間制、会社のメリット、デメリット
<会社のメリット>
・割増賃金(残業手当)を削減することができます。
1年単位の変形労働時間制では、労働時間の上限が1日10時間、1週52時間です。
(隔日勤務のタクシー運転手の場合には上限時間は16時間)
例えば、祝祭日が多くある月やあまり業務量が少ない月の所定労働時間を減らして、
繁忙期には土曜日出勤させて所定労働時間を増やすことで割増賃金の発生を抑えられる。
・年末年始休みや夏休みを設定ることで他の月の労働時間を長く設定できる。
・1日の所定労働時間が8時間の場合、年間所定出勤日数が260日、所定休日が105日でよい
(閏年を除く)。
<会社のデメリット>
・労働時間(会社カレンダー)を途中で変更、廃止できない。
・1年単位の変形労働時間制では、所定労働時間を変形期間・区分期間の30日前までに
確定させなければならないので事前に出勤日と労働時間の設計をしなければなりません。
そして、一度決めたものを後から変更できない。
1年単位の変形労働時間制が向いているのは?
会社カレンダー(年間又は月間)をきっちり設定できて、それを確実に実行できる事業所。
具体的に言うと、工場。
多くの工場では、自社の年間カレンダーがあったり、発注元会社のカレンダ‐に準じた自社のカレンダーを作っている会社が多く、そのカレンダーの変更があまりないので、変形労働時間に向いています。
【まとめ】
数日前にならないと仕事内容が決まらない、一般貨物運送業には変形労働時間へ導入できない。
導入できないということは、1週間の労働時間が40時間を超えた労働時間及び1日の労働時間が8時間を超えた時間は割増賃金を支払う。ただし、1週40時間と1日8時間を重複して越えた時間は、どちらかの時間分の割増賃金で良い。
運送業の変形労働時間
一般貨物運送業に変形労働時間制を採用できるのか?
結論は「できない」
次の通達があります。
(平成六年一月四日 基発第一号)
「・・・例えば貸切観光バス等のように、業務の性質上一日八時間、週四〇時間を超え
て労働させる日又は週の労働時間をあらかじめ定めておくことが困難な業務又は労使協定
で定めた時間が業務の都合によって変更されることが通常行われるような業務については、
一年単位の変形労働時間制を適用する余地はないものであること。」
これを労働基準監督官に確認したところ、「通達のとおりです。仕事の内容が直前まで決まらないことが多い一般貨物運送業者には月間でも年間でも変形労働時間制を導入することは極めて困難です。原則通りの労働時間制にしてください」とのことでした。
時間外労働
時間外労働とは
時間外労働とは、原則として法定労働時間で定められている1週40時間、1日8時間(例外として変形労働時間や一定の特例業種があります)を超えて労働させることができませんが、災害などの通常予見され得ない臨時の必要がある場合、公務のために臨時の必要がある場合、業務の繁忙の場合等に関して、労働基準法では、一定の要件のもとにこの法定労働時間の原則を超えて労働者を働かせることができます。
ただし、時間外労働の基本的な問題として、36協定があれば時間外労働をさせることができるかというと、会社が一方的に命じることはできません。まず、使用者から労働者に時間外労働の申し出があり、つぎに、それに対して労働者からの承諾があって初めて時間外労働ができるのです。もちろん、使用者の許可なく勝手に居残っていたり、休日に出勤した場合は業務命令違反の問題になります。
1.災害その他避けることができない事由による場合
災害その他避けることができない事由によって臨時に時間延長が必要な場合には、その必要な限度まで法定労働時間を超えて労働させることができますが、労働基準監督署長の許可が必要であり、事態急迫のためこの許可を受ける暇がない場合には、事後に届け出が必要になります。この「災害その他避けることができない事由による場合」の範囲は次のような行政解釈があります。
(1)単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めない
(2)急病、ボイラーの破裂その他人命または公益を保護するための必要は認める
(3)事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械の故障の修理は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な手入れは認めない
(4)電圧低下による保安等の必要がある場合は認める
(昭和22.9.13基発第17号、昭和26.10.11基発第696号)
また、災害その他避けることができない事由による場合であっても、割増賃金は支払わなければなりません。
2.時間外労働に関する労使協定による場合
労働基準法第36条では、使用者は労働者代表と書面による協定をし、これを労働基準監督署長に届け出た場合には、法定労働時間を超えて、その協定の範囲内で労働させることができる、と定めています。この協定書のことを通称、36協定といいます。
3.時間外労働を命じる根拠
36協定の締結・届け出は、適法に時間外労働を行うための要件であり、1日8時間を超えて働かせてはならないという法律上の禁止を解くための手続きです。したがって、36協定の直接的な効力は法定労働時間を超えて時間外労働させても違法として処罰の対象とされない刑事上の免罰的効力に限られ、時間外労働を命じる根拠(労働者が時間外労働の命令に服すべき義務)はこの36協定にはありません。その根拠は、労働契約や就業規則で定められるべきです。
それでは、労働契約や就業規則で時間外労働をさせることが定められていれば、強制的にさせることができるかというとそうとも限りません。本来であれば、時間外労働命令はその都度、労働者の同意、承諾を得て行われるべきですが企業の経営、労働の実態からみて無理があるように思われます。
したがって、労働契約や就業規則で時間外労働の義務を定めている場合で、その規定の内容が合理的であるときには、命令に従うべき義務があるとする考え方が妥当であるので、この命令を拒否すると、業務命令違反になることも考えられます。ただし、労働者に時間外・休日労働を行わない止むを得ない事由があるときには、その命令は権利濫用になり、とりわけ休日労働についての業務上の必要性は慎重に判断するべきです。
4.時間外労働の事例
(1)所定労働時間が7時間30分の場合
1日の所定労働時間が7時間30分であって、実際の労働時間が8時間00分である場合は、7時間30分を超えて8時間00分まで30分間の労働時間は、原則として割増賃金を支払う必要はありません。しかし、この30分間の労働した時間に対する賃金は支払う必要があります。労働基準法では、原則として1日の労働時間が8時間を超えた場合に割増賃金を支払うことを定めているので、それに満たない時間には割増賃金を支払わなくてもいいのです。もっとも、就業規則で、所定労働時間を超えて労働した場合には割増賃金を支払うという規定していれば、それに従わなければなりません。
(2)遅刻した者が所定労働時間を超えて労働した場合
遅刻をした者を、遅刻した時間だけ、所定の終業時刻以後も労働させても、それは労働基準法上の時間外労働ではないので、割増賃金を支払う必要はありません。ただし、原則として1日の労働時間が8時間を超えた場合には割増賃金を支払う必要があります。
(3)労働者が自主的に居残っていたり、休日に出勤した場合
時間外労働は、まず、使用者から労働者に時間外労働の申し出があり、つぎに、それに対して労働者からの承諾があって初めて時間外労働ができるのです。ですから、使用者の許可なく勝手に居残っていたり、休日に出勤したときに、業務災害発生したり、通勤歳が発生すると会社の安全管理が問われますので、勝手な居残りや休日出勤は禁止するべきです。
(4)講習会等に参加する場合
時間外労働ということの前に、労働時間になるかどうかを考えると、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」なので、使用者の指示もなく、その管理下からも離れ、労働者が真に自発的に、自主的に参加するのであれば、業務に直接関連するものであっても労働時間とは考えられません。しかし、労働者の自主参加としていても、不参加者に不利益を課すことがあった場合には、使用者の指示があったものと認められるので、これは労働時間となります。当然、法定労働時間を超えた時間には割増賃金を支払わなければなりません。
休日
休日とは
休日とは、労働契約上労働義務を負う「労働日」に対応するもので、契約上労働義務のない日とされています。
労働基準法第35条では「使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。」と休日を定めていますが、これを週休、または法定休日給といいます。この法定休日を別の考え方をすれば、2週間で2日の休日を与えればよいので、1週間目の最初の1日目と、2週間目の最後の1日目を休日にすれば、その間の12日は労働日として最長で12日間連続労働日とすることが出来ます。
また、労働基準法第35条第2項で「前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない」と規定して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない原則の例外を認めています。
休日とは何時に始まり何時に終わるのかというと、「休日とは、単に連続24時間の休業ではなく、暦日による午前零時から午後12時までの休業とする」(昭和23.4.5基発第535号)という通達があります。
休日振替と代休の違い
休日振替とは、予め定められた休日と他の労働日とを入れ替えて、休日として特定されていた日を労働日として、その代わりに指定された労働日を休日とするものです。例えば、今週の日曜日に出勤するので、今週の金曜日を休日にする場合です。
つまり、休日振替とは本来の休日よりも前に休日を取得します。
一方、代休とは、休日労働や時間外労働、深夜労働を行わせた場合に、その代償措置として事後における業務の閑散な時期や労働者の希望する日に労働義務を免除するものです。例えば、今週の土曜日と日曜日に出勤になってしまい、両日ともに出勤した後の来週の火曜日と水曜日を休日にする場合です。つまり、代休とは労働した後で休日を取得します。
そして、この休日振替と代休には大きな違いがあります。休日振替は予め労働日を休日とし、その代わりに他の日に労働するのであるため、割増賃金は発生しません。しかし、代休は本来の休日に労働し、後でほかの日を休日とするため、割増賃金が発生します。
祝日は休日?
国民の祝日や会社設立記念日や地方祭等を法定休日以外の休日として定めている会社においては、このような日に労働させても、法律上の休日労働にはなりません。また、週休と週休以外の休日が同一週にある場合には、そのうちのいずれか一方を休日として確保すれば、他の休日に労働させることが出来ます。原則として法定休日は、1週間に1日あればいいのです。
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