運送業のドライバーに歩合給を導入するための最重要課題
運送業のドライバーに歩合給を導入するための最重要課題
「歩合給を導入したいのですが、何から始めればよいのですか?」
運送会社の経営者の方から、このようなお問い合わせをいただくことがあります。
歩合給というと、「売上高×○%」という計算式を作れば導入できると思われがちですが、実際にはそれだけではありません。
法的規制、就業規則・賃金規程、労働時間管理はいうまでもありませんが、最重要課題は企業秩序維持です。
「公平で適正な配車ができるか」です。
「歩合給を導入するには、給与計算の仕組みを作ればいいのだな」と思われるかもしれません。しかし、私が実務上もっとも難しいと感じるのは、「公平で適正な配車ができるか」です。
歩合給を導入すると、ドライバーの売上高が給与に直接影響します。
声が大きくて口(クチ)の達者なベテランドライバーが配車担当者に向かって「こんな仕事やらない」や「もっと稼げる仕事をつけろ」といったわがままな要求が多くなり、配車担当者もそれに負けてベテランドライバーが希望する仕事をつけてしまう傾向があります。
そうすると、売上高が少ない仕事や売上高の割に難易度が高い仕事は、社歴が短い若手ドライバーに押し付けられて、ベテランが断った仕事を若手ドライバーが仕方なくすることになり、若手ドライバーには不満しか残りません。
その結果、声が大きくて社歴が長いドライバーばかり稼げて、若手ドライバーには残った稼げない仕事しか回ってこないのでバカバカしくなり、退職。これ本当にあります。
また、社長の業務上の指示よりも配車担当者の指示を優先するドライバーが出てきたり、配車担当者がパワハラまがいの言動をしたり、配車担当者がドライバーを束ねて職場を仕切るような状態になったりすることもあります。
会社経営という視点から考えると、これは決して望ましい状態ではありません。
歩合給を導入するのであれば、
「誰に、どの仕事を、どのような基準で配車するのか」というルールを明確にしておくことが非常に重要です。
歩合給の導入で一番難しいのは、実はこの「公平で適正な配車」なのです。
その他にも重要課題がありますのでご案内します。
1.歩合の定義
(1)何を基準に歩合を計算するかですが、一般的には売上高(運賃収入)×一定割合(%)でしょうが、まれに運行距離×㎞当たりの単価の会社もあります。
(2)売上高を基準とする歩合給では、売上高に入れる金額、入れない金額を決めます。
例えば現場での追加作業料金、高速料金、器具備品代金。
(3)売上高に乗じる一定割合もあらかじめ決めておきます。
一定割合が5月は22%、6月は26%、7月は24%のように毎月変わることはあり得ません。一定割合を変更するなら変更理由とともに事前に同意を得なければなりません。
2.賃金の最低保証
歩合給でも最低賃金は適用されます。
といっても、私が今まで見てきた中でトラックドライバーが最低賃金を下回っていたことはありませんでした。
小型車両では最低賃金の少し上程度のことはあります。
そんな安い料金で仕事を受注することはありませんからね。
最低賃金程度の賃金ならドライバーは簡単に退職します。
会社としては、「最低賃金をクリアしているから問題ない」と考えるのではなく、ドライバーにとって魅力のある賃金水準になっているかも考える必要があります。ドライバーの定着にも悪影響を及ぼす可能性があります。
3.就業規則・賃金規程、労働条件通知書への明確な記載
(1)歩合給の定義
一般的には、歩合給=売上高(運賃収入)×一定割合(%)ですが、
売上高を基準とする歩合給では、売上高に入れる金額、入れない金額を明示して、売上高とは何を指すのかを明確にします。
例えば、予定外の現場作業は入れる、高速料金や器具備品代金は入れない等。
(2)歩合の算定期間
毎月1日から末日までのように売上高を集計する期間を決めておきます。
(3)割増賃金の計算方法
歩合給であっても、時間外労働、法定休日労働、深夜労働について、法律上必要な割増賃金を支払う必要があります。
計算式を明確にすれば後々の賃金トラブルを予防できます。
(4)欠勤
歩合給だけの給与体系であれば、欠勤した日は仕事をしていないため、その日の売上もなく、結果として歩合給も発生しないという考え方になります。
一方、歩合給のほかに固定的な賃金を支払うのであれば、欠勤した場合に、その固定的賃金をどのように減額するのか、計算方法を明確にしておく必要があります。
(5)有給休暇取得
歩合給の割合が大きい給与体系では、有給休暇を取得した日の賃金をどのように計算するのかも、あらかじめ確認しておく必要があります。
労働基準法では年次有給休暇の賃金は、
①通常の賃金
②平均賃金
③労使協定をして健康保険の標準報酬月額÷30を1日分とする
の3つがありますが、歩合だけの給与体系では、
①の通常の賃金は計算できません
②の平均賃金にすると月ごとに有給1日分の賃金が変わったり、平均賃金を計算する月によって損得が発生したりすることが考えられますのでご注意ください。
③の方法で有給休暇の賃金を支払うのが妥当です。
どの方法を採用するのかによって、実際の支給額が変わる場合がありますので、制度設計の段階で確認しておきましょう。
(6)会社都合による仕事減少
会社の都合によって仕事がなくなり、ドライバーを休業させる場合には、休業手当の問題も出てきます。
「歩合給だから、仕事がなければ給与を支払わなくてもよい」と単純に考えることはできません。
休業手当を支給するか有給と同じ賃金を支払う必要があります。
4.労働時間の集計・管理
歩合給だから、仕事が早く終わればそれでいい、仕事が遅くなったのは本人の能力の問題だから、残業代は払わないということはできません。
歩合給であっても、法律上必要な時間外割増賃金、法定休日割増賃金、深夜割増賃金を支払う必要があります。
そのため、
・拘束時間
・労働時間
・時間外労働時間
・深夜労働時間
・ 法定休日労働時間
などを適切に集計・管理する必要があります。 運送業では、特に「拘束時間」と「労働時間」を混同しないことも重要です。 歩合給を導入するからこそ、労働時間管理もしっかり行う必要があります。
5.給与の根拠を聞かれたら答える
ドライバーから、「私の給与はどういう計算になっているのですか?」と聞かれたら、明確に説明できる状態にしておくことが重要です。
例えば、
– 日ごとの売上高
– 歩合の対象となる売上高
– 歩合率
– 割増賃金
– 欠勤控除
– その他の手当
などを確認できるようにしておけば、ドライバー自身が給与を検算することもできます。 給与の計算根拠が不明だと、「本当に正しく計算されているのだろうか?」という不信感につながります。 そして、その不信感がきっかけとなって、賃金トラブルや退職につながることもあります。歩合給は、計算方法が明確であることが非常に重要です。
以上が6つの重要事項は歩合給を導入するための最低条件です。
この他にも必要なことはありますのでご注意ください。
まとめ
以上が、運送会社が歩合給を導入する際に、最低限検討しておきたいポイントです。
繰り返します。
★公平で適正な配車が最重要事項
1.歩合の定義
2.賃金の最低保証
3.就業規則・賃金規程、労働条件通知書への明確な記載
4.労働時間の集計・管理
5.給与の根拠を聞かれたら答える
歩合給は、単純に「売上高×○%」という計算式を作れば導入できる制度ではありません。給与制度だけを変更しても、公平で適正な配車や労働時間管理などの社内体制が整っていなければ、ドライバー間の不公平感や賃金トラブルを招くことがあります。
「歩合給を導入すること」ではなく、「歩合給を導入しても会社が公平に運営できる仕組みを作ること」が重要です。
なお、ここで挙げた内容は最低限の検討事項です。
実際に歩合給を導入する場合には、会社の運行形態や現在の賃金体系などを確認したうえで、制度設計を行うことをおすすめします。
