固定残業代を安全運用するための4つのポイント
固定残業代を安全運用するための4つのポイント
「当社でも固定残業代を導入したいのですがトラブルにならない運用方法を教えてください」
という質問があります。
当事務所の取引先には固定残業代をおススメしてませんが、どうしても導入したいというので導入することがあります。その時の注意です。
なぜ固定残業代を導入したいのか?
多くの企業が考える理由は次の2つに集約されます。
1つ目、固定的な給与を多く見せたい。
賞与・退職金・残業に反映されないで固定的な給与を多く見せたい。固定残業代なら固定的に支払っていても残業代の計算に入れなくても済みますし、ある程度の固定給を支払っているので、見映えが良くなります。
2つ目、残業代の計算をするのが大変だから。
固定残業代を導入したいと相談する会社は、実際の残業時間を集計してないことが多いのです。しかし未払賃金は避けたい。ある一定額を払っておけば未払いがないだろうと思っていることが多いのですが、実際に計算すると未払があります。
それではどうすればば固定残業代を安全に運用できる3つのポイントをご案内します。
1.労働時間の集計
何はなくとも労働時間集計。企業規模、業種、職種を問わず、実際に集計しなければ残業代の計算ができませんし、不足があっても支払えません。たとえ歩合給(出来高給)であっても法定労働時間を超えて労働すると残業代や深夜割増、休日割増は発生します。
2.就業規則や賃金規程で規定
就業規則や賃金規程で固定残業代を規定します。
(1)基本給に含める? 分ける?
固定残業代を「基本給に含む」とする規定がありますが、これは危険すぎます。
よくあるのが「基本給30万円。ただし固定残業代を含む」のような規定。
なぜ危険かというと固定残業代を含めた基本給30万円を固定残業代と基本給で分けてください、といわれたら分けられません。分けられなければ全額が基本給とみなされても反論できません。
もともと固定残業代の計算なんかしてないのですから、キリが良い数字で固定残業代だとしてもいいのですが、その金額の計算根拠を明確にしてください。
固定残業代を導入するには基本給の他に〇〇手当として基本給と分けてください。
さらに、固定残業代を超えて残業代が発生したら不足分を支払うことも就業規則や賃金規程に明記します。
また、固定残業代を導入していても、固定残業代を支給しないことも決めておきます。
例えば、私傷病で1か月間欠勤した場合、不支給を決めてないと、基本給は不支給でも固定残業代は支給せざるを得ないことがあり得ますので固定残業代を不支給にすることも規定しておきます。基本給の不支給や減給の規定は必ずというくらいありますが、固定残業代の不支給がないことがありますので要注意。
例えば、「所定労働日数の過半数を出勤しない月は固定残業代を支給せず、実際の残業代を支給する」。
(2)手当の名称
よく目にする「業務手当」や「職務手当」のように見ただけで内容が分からない手当で有耶無耶にしてごまかそうとする会社がありますが、これは直してください。はっきりと「固定残業手当」や「固定残業代」のように会社側からも労働者側からも見ただけで分かる名前にしてください。間違っても「特別手当」は使わないでください。特別手当はトラブルの発生源。
3.労働契約書、労働条件通知書で明示
労働契約書や労働条件通知者に固定残業代の金額と何時間分かを明記します。
50,000円とか80,000円とかキリのよい数字でも良いですが何時間分で何円かを明確にします。
キリの良い数字ですと、例えば「固定残業代50,000円ただし33時間20分とする」、のようにします。
時給1,2000円ですと50,000円÷(1,200円×1.25)=33.33333ですので60進法に直して33時間20分。
就業規則や賃金規程と同様、固定残業代よりも実際の残業代が多かったら、不足分を支払うことを明記。
4.給与明細を明確化
最後は給与明細。
出勤日数、労働時間、残業時間、深夜時間、休日時間等を記載します。
残業時間を記載したくない会社がありますが、それこそトラブルの原因。
給与明細の備考欄があれば、「固定残業代は〇〇時間分の残業代とする」と記載や入力します。
備考欄がない給与明細では、余白に(その人に合わせて)「固定残業代は〇〇時間分の残業代とする」というゴム印を押します。
固定残業代が個人個人で違っていてもよいのです。
給与明細を見て納得すれば賃金トラブルは予防できます。
少なくともこの4つのことは実践してください。
「弁護士から未払い賃金請求があっても正しく計算できていれば支払わなくてもいいでしょう。」
という方がいますが、弁護士から請求があったら、会社も弁護士に依頼しなければ勝負になりませんし、会社が弁護士を依頼すると(顧問弁護士がいないと)着手金が発生します。そのうえ依頼した弁護士から日毎の勤怠状況の詳細な問い合わせがありますので、仕事どころではありませんし、精神的にも良いことなんかありません。
なので、従業員や元従業員が不審に思わないような制度にしなければなりません。
不審に思った従業員や元従業員がネット検索すると、着手金無料、完全成功報酬の弁護士事務所が膨大な広告費を使って集客しているのです。
不信に思われないような明確な制度を運用していれば弁護士事務所に行かれることもないでしょう。
繰り返します。
当事務所は、固定残業代はおススメしません
しかし、どうしても導入したいのであれば上記のことをしっかりと実行してください。